大企業では見えない、ベンチャーのハード開発現場のリアル

ベンチャーの現場では、スピードと柔軟性が何よりも重視されます。大企業のような明確な役割分担や十分なリソースはなく、一人が複数の役割を担うことも珍しくありません。トラブル対応や仕様変更も日常茶飯事です。だからこそ、問題を前向きに解決していく力と、チームの中での信頼関係が重要になります。完璧な仕組みがない環境は大変ですが、その分だけ学びの密度も高く、自分の成長を実感できる場でもあります。

 


ベンチャー企業のハードウェア開発現場は、とにかくスピード感があります。
大企業のように、複数部署を通して承認を取り、仕様をじっくり詰めてから動くという流れではありません。
「とりあえず動くものをつくって試す」。
これが基本のリズムです。

もちろん、スピードを優先する分、リスクもあります。
検証が追いつかないこともあれば、設計のやり直しが発生することもある。
でも、その代わりに「決断から行動までの距離」が短い。
自分の判断がそのまま製品に反映され、すぐに結果が見える。
この感覚は、大企業の開発ではなかなか味わえません。

もうひとつ、ベンチャーらしい特徴があります。
それは、「スペシャリスト」よりも「ジェネラリスト」が重宝されるということ。
ハードの設計だけでなく、ファームウェア、筐体設計、量産準備、現場対応まで、幅広く関わることが求められます。
“自分の担当外”という線引きはほとんどありません。

最初は大変ですが、視野が広がり、「ものづくり全体を俯瞰して考える力」が自然と身につきます。
これは、将来どんな環境に行っても通用する大きな財産になります。

 


ベンチャーの開発では、スピードが武器である反面、課題も多くあります。
そのひとつが「開発期間が短くなりがち」という点です。

スケジュールは常にタイトで、検証やドキュメントよりも“動くこと”が優先されます。
本来であれば数か月かけて詰めたい試作も、「来月の展示会に出したい」「すぐにデモしたい」といった理由で、数週間で形にしなければならない。
そのスピード感にワクワクする一方で、精神的にも体力的にもハードな時期があります。

また、「完璧を求めると大変になる」のもこの世界のリアルです。
開発の途中で仕様が変わることも日常茶飯事。
使う部品が突然入手できなくなったり、コストダウンのために設計を変えざるを得なかったり。

そんな中で「完璧な設計」にこだわると、スケジュールも心もすぐに追い込まれます。
求められるのは、100点を目指す力よりも、限られた条件の中で80点を出し続ける柔軟さ。
“スピードの中で妥協点を見極める判断力”が、ベンチャーの現場ではとても重要になります。

 

ステップ1: まず「仮決め」で動く


ベンチャーでは、「製品企画」や「マーケティング部門」が存在しないことも珍しくありません。
つまり、製品の方向性やコンセプトを決めるのは、現場のエンジニア自身です。

初期段階では、「誰が買うのか」「どの機能を優先するのか」すら曖昧なまま開発が始まることもあります。
そうした中で、最初から“完璧な仕様”を求めるのは現実的ではありません。

むしろ、「仮決めで動く」ことを恐れないことが重要です。
現時点での仮説を立て、動くものをまず作り、市場に出して反応を見る。
その反応をもとに仕様を決め直す——この繰り返しが、結果的に最短ルートになります。

実際、ハードウェアの場合は、市場に導入して初めて“正しい仕様”が決まることも多いです。
カタログ上の理想よりも、現場の使い勝手の方がはるかに重要だからです。

完璧な仕様を待つより、未完成でも市場に出して“生きた答え”を取りにいく。
それが、ベンチャーのスピードの本質です。

 

ステップ2: 設計は“後で直せる”前提で作る


ハード開発では、「最初から完璧に作る」ことがリスクになることもあります。
部品の供給状況やコスト、認証、顧客要望——あらゆる条件が変化する中で、固定的な設計はすぐに限界を迎えてしまうからです。

そのため私は、「後で直せる設計」を強く意識しています。
たとえば、回路設計では将来的な変更を見越してランドを余裕を持って配置したり、代替部品を想定したピン配置にしたりします。
メカ構造も、量産前の段階では3Dプリントで試作し、後から微調整できるようにしておく。

「完璧」を目指すよりも、「変えやすくする」方が結果的にスピードも品質も上がります。
リスクや仕様変更は“前提”として受け入れ、設計の柔軟性で対応するのが現場流のやり方です。

ベンチャーでは、“完璧な製品”ではなく、“成長できる設計”を目指す。

 

ステップ3: チーム全体で“仮説共有”をする


ベンチャーでは、意思決定のスピードが早い一方で、社内の情報共有が追いつかないこともあります。
特に、役員側にエンジニアリングの知識がない場合、
「なぜこの仕様にしたのか」「この設計変更の影響は何か」が正しく伝わらないまま、判断が下されることもあります。

そのギャップを埋めるために大切なのが、エンジニア発信で“仮説共有”の場をつくることです。
私はよく、試作のタイミングや仕様変更の前に「仕様検討会(DR)」を開きます。
そこでは、決定事項だけでなく、「なぜこの選択をしたのか」「他にどんな案があったのか」といった背景も共有します。

このプロセスを丁寧に行うことで、関係者の理解度が上がり、後から「そんな話聞いていない」という摩擦を防げます。
また、現場の声が経営層に届くことで、意思決定も現実的になります。

「技術」と「経営」の間をつなぐのも、ベンチャーエンジニアの大切な仕事。
共有の速さが、組織全体のスピードを決めます。

 

ベンチャーのハード開発現場は、常に変化の中にあります。
思い通りにいかないことも多く、トラブル対応で夜遅くまで残る日もある。
でもその一方で、自分の手で製品を生み出す喜びがダイレクトに感じられる場所でもあります。

設計から量産、顧客対応まで、自分の判断がリアルタイムで結果に反映される。
その緊張感とスピード感が、何よりの学びになります。

大企業では一部しか見えなかった“ものづくりの全体像”が、ベンチャーでは手の届く範囲にあります。
そして、その中で身につくのは「完璧さ」ではなく、「変化に対応できる力」。
それこそが、これからのキャリアを支える“実践的な強さ”になるのだと思います。

 

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