💡要約
「頑張っているのに、だんだんしんどくなる」「前はやる気があったのに、今は続かない」。
そんな状態を、私たちはつい「頑張りすぎたから」「自分が弱いから」と考えてしまいがちです。
でも、心理学やバーンアウト研究では、燃え尽きの原因は“頑張りすぎ”そのものではなく、何のために頑張っているのかが見えなくなることだとされています。評価や成果だけを目的に走り続けると、達成しても満足感が残らず、消耗しやすくなる。一方で、仕事の意味や誰への影響を自分なりに持てている人は、同じ環境でも続けやすい。本記事では、「続ける人」と「燃え尽きる人」を分ける違いが、努力量ではなく“目的の置き方”にあることを、研究をもとにやさしく整理していきます。
はじめに
燃え尽きる人を見ると、
「頑張りすぎたんだね」と言われることがあります。
しかし、それはバーンアウト研究の理解としては正確ではありません。
実際には、
同じくらい、あるいはそれ以上に働いていても、燃え尽きない人がいる。
この事実を説明するために、心理学や組織研究は長年研究を重ねてきました。
結論から言うと、
続けられるかどうかを分けるのは、努力量ではなく
「何のためにそれを続けているのか」という目的の置き方です。
考えるステップ
バーンアウト研究の基本整理
バーンアウト(燃え尽き症候群)は、
1970年代から研究されてきた心理学・組織行動学のテーマです。
中心的研究者である Christina Maslach は、
バーンアウトを次の3要素で定義しました。
- 情緒的消耗感(エネルギーが枯渇した感覚)
- 脱人格化(仕事や人に対して距離を取る)
- 個人的達成感の低下(自分の仕事が役に立っていない感覚)
ここで重要なのは、
バーンアウトは「忙しさ」そのものではなく、
心理的な意味の崩れとして起きるという点です。
WHOの定義が示す本質
WHOはバーンアウトを、
医学的疾患ではなく「職業に関連する現象」と定義しています。
その説明では、
- 慢性的な職場ストレス
- 適切に管理されていない状態
が原因となり、
- エネルギーの枯渇
- 仕事への心理的距離
- 職業的有効感の低下
が生じるとされています。
ここでも、「長時間労働」という言葉は中心ではありません。
焦点になっているのは、
仕事が意味を持たなくなっている状態です。
なぜ目的が外にあると燃え尽きやすいのか
バーンアウト研究では、
次のような状態がリスクを高めることが示されています。
- 評価されることだけが目的
- 数字や成果がゴール
- 他人の期待に応えることが動機
こうした目的は、短期的には行動を強く促します。
しかし長期では、
「達成しても満たされない」状態を生みやすい。
成果を出すたびに、
次の成果を求められる。
評価が下がれば、存在価値まで揺らぐ。
この構造そのものが、
情緒的消耗と達成感の低下を引き起こします。
続ける人は「意味」を内側に持っている
一方、燃え尽きにくい人は、
目的の置き方が少し違います。
- 誰にどんな影響を与えたいか
- 自分は何を積み上げているのか
- この仕事はどんな価値につながっているか
こうした問いを、
評価とは別の軸で持っています。
Maslach自身も、
バーンアウトを防ぐ要因として
仕事の意味づけ(meaningfulness) を重視しています。
目的が内側にあると、
一時的に評価されなくても、
行動を続ける理由が残ります。
成果目標だけでは、人は走り続けられない
成果目標は必要です。
しかし、それを唯一の目的にすると、
達成した瞬間に空白が生まれます。
バーンアウト研究が示すのは、
「終わりのある目的」だけで走り続けることはできない
という事実です。
続ける人は、
成果の先にある影響や意味を目的にしています。
だから、成果が一区切りついても、
行動が止まりません。
「頑張る」をやめる必要はない
この話は、
「もっと力を抜こう」という提案ではありません。
必要なのは、
頑張りの矛先を変えることです。
- 評価のために頑張る
- 意味のために頑張る
後者のほうが、
バーンアウト研究の観点では
圧倒的に持続可能です。
まとめ
バーンアウト研究が一貫して示しているのは、
燃え尽きは個人の弱さではなく、
目的設計の問題だということです。
- 頑張りすぎたから壊れたのではない
- 意味を失ったまま走り続けたから消耗した
続ける人と燃え尽きる人の違いは、
能力でも根性でもありません。
何のために続けているのか。
その問いを、自分の内側に持てているかどうか。
それが、長く働くうえでの
最も静かで、最も強い分岐点です。

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